「ワンリー様も入浴なさるんですか?」
「おまえをひとりにするわけにはいかないからな」
「え、ちょっと待ってください。一緒には入れませんよ。浴場は男女別々だって言ってたじゃないですか」
「おまえを警護するためなのに、ダメなのか?」
「絶対ダメです」

 メイファンひとりしかいなかったとしてもお断りなのに、他の女性客がいたら大騒ぎになってしまう。

「俺の姿は誰にも見えないぞ」

 そういえばワンリーはそんなことができるんだった。けれど——。

「それでもやめてください」

 姿が見えなくてもそばで見られていることがわかっていると恥ずかしい。たとえ今夜名実共に夫となるかもしれない方だとしても。

「なるべく早くあがりますから、お願いします」
「そうか」

 メイファンが頭を下げると、ワンリーは渋々引き下がった。それでも心配して浴場の前までついてくる。
 くれぐれも中に入らないようにもう一度お願いして、女性用の大浴場に入った。

 入ってすぐの脱衣所には誰もいない。メイファンは服を脱ぎ、手ぬぐいを持って奥の浴場に向かった。石造りの洗い場には大きな桶に湯が溜めてあり、その横には手桶が積み重ねて置いてある。手桶に湯を汲んで、髪と体を洗う。洗い髪を頭の上にまとめてさらに奥に進むと、のれんの掛かった出口があった。出口の横には入浴用の薄衣が積み重ねられている。それを羽織ってのれんをくぐった。

 岩を組んで作られた岩風呂は、こじんまりとしていて、五人くらい入ればいっぱいになりそうだ。入り口側は宿の壁、通りに面した側と男湯との境界は背の高い竹垣で囲まれている。入り口正面は鬱蒼と茂る木の向こうが崖になっていて下には川が流れているようだ。

 自分の他に誰もいないので、メイファンは湯船につかって足をのばした。頬に触れるほわほわと温かい湯気と、耳に聞こえる川のせせらぎと虫の声にホッと息をつく。見上げると無数の星が瞬いていた。