すっかり日が落ちてあたりが暗くなった頃、ふたりは街道の途中にある宿場町センダンに到着した。テンセイに行くには、他にふたつの宿場町を経由することになる。センダンはその中で一番大きな町だ。

 町のあちこちから湯気が上がっているのは温泉が湧いているからで、それを目当ての湯治客も多い。どの宿にも当然のごとく大きな温泉風呂があった。

 通りには宿が建ち並び、温泉の熱を利用した饅頭やゆで卵を売る露店もある。それらを横目に眺めながら歩いていると、ワンリーが黙って立ち止まり、ゆで卵をひとつメイファンに買い与えた。どうやらよっぽど卵好きだと思われているらしい。
 素直に礼を述べて、メイファンは少し先にある宿へ入った。

 先に宿の食堂で食事を済ませ、部屋に案内してもらう。シンシュで泊まった宿の半分にも満たない部屋には、大きめの寝台がひとつに、鏡台がひとつあるだけだった。
 ふたりは夫婦ということになっているので、夫婦用の部屋なのだろう。もっとも眠るのはメイファンだけでワンリーは眠らないのだが。

 部屋に入ったワンリーはニコニコと嬉しそうに笑う。

「今夜はふたりきりだな」
「そう、ですね」

 言われてみればその通りだ。そう思った途端、メイファンの体に緊張が走った。次第に鼓動が早くなっていく。まだ気持ちが追いついていないのに、今夜が初夜になるのだろうか。
 そんなメイファンの心の機微を知ってか知らずか、ワンリーは楽しげに目を細める。

「ゆうべはろくに話もできなかったからな。今夜はおまえの話を聞かせてくれ」
「はい」
「まずは風呂だな。せっかくの温泉だ。疲れを癒してこい」
「はい」

 とりあえず風呂に入って落ち着こう。そう思いメイファンは置いてあった手ぬぐいを持って部屋を出ようとした。すると当たり前のようにワンリーが後ろからついてる。