シンシュの門を出て当たり前のようにワンリーに手を引かれながら、メイファンは彼に笑顔を向けた。

「ワンリー様、すてきな靴をありがとうございました。とても歩きやすいです」

 ワンリーも笑顔でそれに答える。

「そうか。それはよかった。でも靴だけでよかったのか? 靴に合う服も買えばよかったのに」
「いいえ。街道は都の中と違って物騒なので、あまりきれいな格好をしていると盗賊に狙われやすいと聞きました。色々、目立たない方がいいんですよね?」
「そうだな。人の揉め事は魔獣を呼び寄せる」
「そうなんですか?」

 そういえば、これまで魔獣とは縁がなかったせいか、魔獣が人を襲う理由など考えたこともなかった。そして聖獣がなぜ人の世の安寧を守っているのかも。
 首を傾げるメイファンに、ワンリーは察したように説明をする。

「魔獣たちは人が発する陰(いん)の気を力の源にしている。だから人心を惑わして互いに争わせたり、襲って怖がらせたりするんだ。逆に俺たち聖獣は人が発する陽の気を力の源にしている。だから人の世の安寧を守っているんだ」

 なるほど。理由もなく人を守っているわけではないらしい。
 だが、そういうことなら、聖獣と魔獣が和解する日は永遠に来そうもない。

「私はこの先ずっと生まれ変わるたびに魔獣に狙われるんですね」

 メイファンがため息まじりにつぶやくと、意外にもワンリーは否定した。

「いや。千年だ」
「え? 終わりがあるんですか?」

 目を丸くするメイファンに、ワンリーは微笑む。

「あぁ。疲れてないか? そこで少し休もう。そろそろ昼だ」

 そう言って街道脇にある休憩所を指さした。そこはシェンザイから流れてくる小川のほとりで、木陰には木製の長いすも置かれている。馬に水を飲ませている人が何人かいた。