店内の隅にあるイスに腰掛けて足を測ると、店主はメイファンに尋ねた。

「奥様、なにかご希望はございますか?」
「長旅でも疲れにくくて丈夫なものがいいです」
「かしこまりました」

 店主は陳列棚に並べられた靴を眺めて、その中から三つを選びメイファンの前に並べた。
 濃いめの赤い糸で刺繍が施された鮮やかな赤い靴と甲の部分を縁取るように白い小さな花のついた紺色の靴と素朴な無地の木肌色の靴。どれもつま先が広めになっている。

「奥様のご希望に添うものはこちらになります。どれも軽くて柔らかく丈夫ですよ」

 メイファンは今履いている靴とよく似た、木肌色の靴を手に取った。するとそれまでそばに立って、店主が”奥様”と呼ぶたびにニヤニヤしていたワンリーがしゃがんで紺色の靴を差し出す。

「こっちにしておけ。白い花が愛らしいおまえによく似合う」
「ワ、ワンリー様……」

 男性に愛らしいなどと言われたのは初めてで、メイファンは照れくささに見る見る顔が熱くなってきた。うつむいてワンリーから目を逸らす。二人の様子に店主が声を上げて笑った。

「これは当てられましたな。仲がおよろしいようで」

 ますますうつむくメイファンの前に、店主はワンリーが選んだ靴を差し出す。

「では奥様、こちらの靴でよろしいですか?」
「……はい」

 そのままワンリーが支払いを済ませ、新しい靴に履き替えて、メイファンはうつむいたままワンリーに手を引かれて店を出た。

 新しい靴は店主が言った通りに軽く柔らかくて、初めて履いたとは思えないほど足になじんでいる。おまけにそれほど派手ではないので、地味な服装にも浮いてはいない。うつむいた視線の先に、並んだ小さな白い花が見えて、メイファンは少し嬉しくなった。

 きれいな服を着たりお化粧をしたり、着飾ることはお祝い事やお祭りの時くらいしかない。足元だけでもかわいくなって、気持ちがうきうきと弾んでくる。
 ”奥様”効果でご機嫌のワンリーと一緒に、商店街を少し散策して、お昼ごはんを買った後、北東の門をくぐってシンシュの都を後にした。