「まずは靴を手に入れよう。馬に乗れば早いんだろうが、慣れてないと歩くより疲れるからな。おまえ、馬には慣れていないんだろう?」
「馬の引く荷車には乗ったことありますが、馬に直接乗ったことはありません」
「そうか。ではやはり歩きやすい靴を買おう。この先長いからな」
「はい」
確かに今履いている靴は長い間履き続けてかなりくたびれている。酷使すると簡単に穴が空いてしまいそうではあった。
馬の背は疲れるという話だが、麒麟の背も同じようなものなのだろうかとふと思った。
メイファンの手を引いて、ワンリーは人波を縫うようにスイスイと歩いていく。そして靴を売る店の前で立ち止まった。
店先に並べられた靴を眺めていると、奥から店主がやってきた。ニコニコしながらワンリーに尋ねる。
「いらっしゃい。どんなものをお探しで?」
「いや、俺じゃなくて彼女の靴を探している」
ワンリーがこちらに視線を向けると、店主はメイファンを眺めた。
「そうですねぇ。奥様はお若いから多少派手なくらい華やかなものでもよくお似合いだと思いますよ」
いやいや、あまり派手だとこんな地味な服装には浮いてしまう。そう思ってメイファンが苦笑していると、ワンリーが突然店主の両肩を掴んだ。
「今、なんと言った?」
思い詰めたような表情に店主が困惑して見つめ返す。
「え? お若いから華やかなものがお似合いだと……」
「その前だ」
「え? え? お、奥様……じゃないんですか? 申し訳ありません!」
恐縮する主人の肩を揺すって、ワンリーは必死の形相で懇願した。
「いや、いい。ぜひ奥様と呼んでくれ」
「は、はぁ」
「ワンリー様、もうそのくらいで」
さすがに見かねてメイファンが割って入る。ワンリーはようやく店主から手を離した。店主は苦笑しながらワンリーを一瞥して、メイファンを促す。
「では奥様こちらへ。足の大きさを測らせていただきます」