「まずは腹ごしらえだな」

 そう言ってワンリーは部屋の真ん中にある円卓にメイファンを促す。天井から下がった呼び鈴のひもを引きながら尋ねた。

「なにが食べたい?」
「卵粥を」
「またそれか。遠慮するなと何度言えばわかる。満漢全席とか頼んだらどうだ」
「そんなに食べられません。卵粥が好きなんです」

 自分は食べないくせにどうして満漢全席などと余計なことを中途半端に知っているんだろう。何日もかけて食べるような豪勢な料理を朝からひとりで食べきれるわけがない。

 そんなことを考えながらメイファンが内心ため息をついている間に、ワンリーはやってきた宿の給仕に食事を頼んでいた。少しして運ばれてきた食事は湯気の立つ卵粥に小皿に載った卵焼きが添えられていた。
 頼んでいないものが添えられていて、不思議そうに見つめるメイファンに、ワンリーは笑顔で答える。

「おまえは卵好きのようだからな。一品追加してもらった。そのくらいなら食べられるだろう?」
「ありがとうございます。いただきます」

 特別に卵が大好きというわけではない。毎日のように食べている卵粥くらいしか好きな料理を思いつかないだけだ。けれどワンリーの心遣いが嬉しくて、温かい卵粥と卵焼きで、体と一緒に心も温かくなった。