メイファンが床に付いたあと、ワンリーは明かりを消した。三つ並んだ寝台の一番奥にはメイファンが眠っている。ワンリーは一番手前の寝台に腰掛け、そばに立ったエンジュと他愛のない雑談をしていた。

 やがてメイファンが眠りに落ちた気配を感じてそっと振り向く。

「眠ったようだな」
「そのようで」
「座れ」
「はい」

 エンジュが隣に腰掛けると、ワンリーは顔を近づけ声を潜めた。

「ヂュチュエが単身北東に向かう大きな魔獣を見たらしい。おそらくチョンジーだ」
「北東といえば、帝都テンセイですね」
「あいつは人心を惑わすのが得意だ。単身で向かったとなるとなにか企んでいる」
「メイファン様には知らせないのですか?」
「知らせるな。ただでさえ周りの環境が激変して不安がっている。これ以上心配はさせたくない」
「かしこまりました」

 メイファンを力ずくで奪おうともせず、やけにあっさり引き下がったと思えば、こういう魂胆だったらしい。
 シンシュからテンセイまでは人の足で三日はかかる。それまでテンセイが無事ですむかどうか。

 帝都テンセイは守護聖獣の中でも最強のチンロンが守護している。さらに四聖獣のソンフーも援護に向かわせた。あっさり陥落するとは思えないが、様子を知りたい。
 幸い魔獣の王チョンジーはテンセイに向かった。雑魚相手ならヂュチュエだけで対応できるだろう。

「エンジュ。帝都の様子が気になる。明日、加護の儀式が済んだらすぐに帝都の様子を見に行ってくれ」
「かしこまりました」

 エンジュは立ち上がり、恭しく頭を下げた。ワンリーは頷いて、そっと後ろを振り返る。何も知らないメイファンが静かに寝息を立てていた。