言い訳もせず頭を下げたエンジュを、ワンリーは不愉快そうに見下ろしている。このままではエンジュが悪者になってしまう。そう思うとメイファンは勢いよく席を立った。

「あの! エンジュ様のせいではありません! 私が勝手に……!」
「勝手に? どうした? 里心でもついたか?」
「ちがっ……いえ、そんなところです……」

 家が恋しくて泣くほど子どもではないが、本当の理由を言うのもはばかられ、メイファンは曖昧にごまかす。だが、そんな適当な返事にもワンリーはあっさり機嫌を直してニコニコしながらそばまでやってきた。そして、おもむろにメイファンを抱きしめる。

「そうかそうか。では寂しくないように今夜は俺が添い寝してやろう」
「い、いえ! お気遣いなく!」
「遠慮するなと言っただろう」
「遠慮じゃなくて、そんなのかえって眠れません!」
「なぜだ?」
「なぜって……」

 本当に理由がわからないのだろうか。だとしたら、聖獣様はやはり感覚がずれていらっしゃる。
 添い寝だけですむかどうか、女が警戒するのは当たり前だと思う。だがワンリーはいずれメイファンの夫となる。夫と寝所を共にするのを堂々と拒絶するのも妻としてどうかと思う。仕方ないのでメイファンはまたしても適当に言い逃れることにした。

「ワンリー様は眠らないんですよね?」
「あぁ」
「私が寝ている姿をそばで見られているかと思うと気になって眠れません」
「気にするな」
「そう言われても、気になるんです」

 なにしろ寝ている間は意識がない。寝相が悪いとは聞いていないが、なにか変なことを口走ったりしないとも限らない。そんな無意識下の自分をワンリーに知られてしまうのはやっぱり恥ずかしい。いずれ妻となれば知られてしまうとしても今は困る。

 特に今夜は、先ほどエンジュに話したことを口走ってしまう可能性が高い。あんなこと、ワンリーは聞きたくないだろう。
 メイファンはにっこり微笑んで、ワンリーの腕からすり抜けた。

「本当に大丈夫です。ワンリー様の姿を見たら寂しくなくなりました」

 それを聞いてワンリーは、目に見えて嬉しそうに顔をほころばせる。

「そうか! それならよかった。今日は歩き疲れただろう。ゆっくり休むがよい」
「はい。そうします」

 メイファンは頭を下げて、窓から離れた部屋の一番隅にある寝台に向かった。ワンリーたちに背中を向けて布団に潜り込みホッと息をつく。しばらくは後ろが気になっていたが、やはり疲れには勝てない。いつの間にか眠りについていた。