女性に案内されて二階の一番奥にある大きな扉をくぐる。この宿で一番いい部屋は驚くほど広かった。メイファンの家より広い。大きな寝台が三つと部屋の真ん中には大きな丸い机がひとつ。四つのイスが取り囲んでいる。一晩泊まるだけでこんな大きな部屋は不必要な気がする。
なにより、それなりに小綺麗な出で立ちの聖獣様たちはともかく、着の身着のままやってきた自分のみすぼらしい姿が、この立派な部屋に不釣り合いで居心地が悪かった。
所在なげにたたずむメイファンの横で、女性はニコニコしながらエンジュに尋ねた。
「お食事はいかがなさいますか?」
「我々は済ませてきましたので、こちらのお嬢さんの分だけお願いできますか?」
「かしこまりました」
頭を下げて立ち去ろうとする女性をメイファンはあわてて引き止める。
「あ、あの、すみません!」
この調子ではとんでもなく豪華な食事が用意されそうな気がする。聖獣様たちは食事が必要ないと言っていた。自分ひとりで食べきれるとは思えない。
「私も先ほど少し食べましたので、卵粥だけでいいです」
「あら、そうですか?」
少し残念そうにしながら女性は部屋を出ていった。彼女を見送ってメイファンはホッと息をつく。それを見てワンリーがおもしろそうにクスリと笑った。
「遠慮しなくてもいいと言っただろう」
「いえ、本当に先ほどの串焼きでおなかも落ち着いてますから」
「そうか」
納得したようにうなずきながらもワンリーはクスクス笑っている。ぜんぜん信じてないのが丸わかりで少しムッとする。
そんなメイファンの様子は気にもとめず、ワンリーは部屋の奥へ向かい、窓を大きく開いた。窓枠に片足をかけて振り返る。