すっかり日が暮れた頃、メイファンとワンリーはようやくシンシュの都にたどり着いた。都の門をくぐって初めて目にしたシンシュの様子にメイファンは目を見張る。夜だというのに、シンシュの町は光と活気にあふれていた。

 商業の都シンシュの通りは石畳で覆われ、たくさんの商店が軒を連ねている。そして多くの人が通りを行き交っていた。
 ビャクレンの通りはほとんど土のままで、農業に従事している人が多いため朝が早い。そのせいか日が暮れてから外を出歩いている人はほとんどいなかった。
 にぎやかな町並みはシンシュの守護聖獣ヂュチュエを象徴する赤色の建物が多い。その色が通りを照らすたくさんの明かりに彩られて、より一層にぎやかさを増していた。

 珍しさに辺りをキョロキョロと見回すメイファンの横で、ワンリーもキョロキョロしていた。人の世界には滅多に来ないと言っていたから、自分と同じように珍しいのだろうか。そんな風に考えていたら、門を入ってすぐの人混みの中から鮮やかな赤い服を着た青年がこちらにやってきた。青年を見てワンリーは笑顔になる。どうやら彼を捜していたようだ。

「エンジュ」
「お待ちしておりました。ワンリー様」

 エンジュと呼ばれた青年は恭しく頭を下げたあと、隣にいるメイファンに微笑んだ。この人がシンシュに遣わされた四聖獣のひとりなのだろう。
 メイファンは緊張しながら軽く会釈をした。

「はじめまして。メイファンです」
「はじめまして。ワンリー王の眷属(けんぞく)でエンジュと申します」

 穏やかな声音と柔和な笑みにメイファンの緊張はほぐれる。ビャクレンに来たソミンは厳しい人だったが、エンジュは優しそうでホッとした。