「もしも、魔獣に捕まってしまったら殺されてしまうんですか?」
「いや、それはない。魔獣の領域に連れ去られるだけだ。人の世界に帰ることができないことに変わりはないが」

 てっきり食べられてしまうと思っていたので、メイファンは目を丸くした。

「どうして殺さないんですか?」
「殺したらせっかく開いた魔獣の門は消滅する。そしておまえの魂は別の体に宿る。門が開くまでまた二十年待たなければならない。それよりおまえの命がつきるまで手元に置いて門を維持する方がいいからだ」

 魔獣の元で囚われたまま一生を送る。殺されないだけで、どんな目に遭わされるかもわからない。死んだ方がましだと思うような気がする。ワンリーは知っているのだろうか。尋ねるとワンリーは首を振った。

「わからない。俺は魔獣の領域には入れないのだ」
「最初の門の娘は捕まった後逃げてきたんですよね? 聞かなかったんですか?」
「あぁ。だが、シュエルーは門を開かれてすぐに運良く逃げ出してきたらしい。囚われたままどんな生涯を送るのかまではわからない。それから五百年の内、魔獣に囚われた娘はひとりだけだ。おまえたちの言う”暗黒の百年”だ。その娘は結局人の世界に帰ってこなかったから、やはりわからない」

 結局魔獣の元でどんな扱いを受けるのかは謎のままだ。それよりもワンリーが執着している最初の門の娘の名前がシュエルーだということの方が、メイファンの心には深く刻みつけられた。

 メイファンの手を握るワンリーの手に力がこもる。

「チョンジーに先を越されて娘をさらわれた時は百年間悔やまれてしょうがなかった。おまえはなんとしても俺が守り抜く。チョンジーには絶対渡さない」

 そこまで想われているのは嬉しいことなのだろう。けれどメイファンは素直に喜べずにいた。
 出会ったばかりで自分はまだワンリーのことをなにも知らない。それはワンリーも同じはずなのに、臆することなく愛してるとまっすぐに気持ちを表す。

 ワンリーが愛しているのはメイファンの魂。前世のことをなにも覚えていないけど、かつてワンリーが愛したシュエルーの魂なのだ。自分ではない。それが心に引っかかっていた。