ビャクレンからシンシュへ向けて、メイファンはワンリーに手を引かれ黙々と歩く。夜にはシンシュに到着するだろう。
 ワンリーは悠長にしているヒマはないと言った。その割には徒歩でガイアン一周とは呑気な気がする。ワンリーが麒麟の姿に戻れば、その背にメイファンを乗せてもっと早く移動できるのではないだろうか。それが腑に落ちないので尋ねた。

「ワンリー様」
「様はいらぬ。ワンリーでいい」

 そう言われても聖獣王を呼び捨てになどできない。それについては聞かなかったことにして、メイファンは本来の疑問をぶつけた。

「麒麟の姿になれば早く移動できるんですよね? どうして歩いていくんですか?」
「俺の姿は目立つからな。魔獣たちに気取られてはまずい」

 それを聞いてメイファンは思わずワンリーの姿を眺める。金の髪と金の瞳は十分すぎるほど人目を引いていた。目立ちたくないならどうしてそんな派手な姿に変化(へんげ)しているのだろう。メイファンはため息と共に指摘した。

「そのお美しい姿は十分目立っています。人に化身されるなら、もう少し地味にした方がいいのでは?」
「俺は美しいのか?」
「え……」

 嬉しそうに目を輝かせて詰め寄るワンリーに、メイファンは顔をひきつらせる。意図してその姿になったわけではないということだろうか。
 自覚がないなら教えて差し上げるべきだろう。

「お美しいだけでなく、その金の髪と瞳はガイアンでは珍しいです」
「そうか。おまえに美しいと言われると嬉しいな」
「え、いや、美しいかどうかはこの際重要ではありません」
「そうだな。俺もおまえがどんな姿に生まれ変わっても愛する自信がある」

 メイファンは大きくため息をついて口をつぐんだ。
 相変わらずワンリーとの会話はかみ合わない。こんな方と夫婦になってやっていけるのか不安でしょうがない。
 けれどその前に魔獣につかまってしまってはそれどころではない。遠回しに言っても通じないなら、はっきり言うことにしよう。

「ワンリー様。姿を自在に変えることができるなら、髪と目の色を黒くしてください。できないなら、せめて髪を隠してください。その色は目立ちすぎます」