そのままふたりは都の南東門をくぐる。門を出てシンシュへ向かう街道を少し進んだところで、メイファンは足を止め振り返った。もう二度と戻れない故郷を心に焼き付けておきたかったのだ。

 本当なら今夜は両親に誕生日のお祝いをしてもらうはずだったのに、どうしてこんなことになったのだろうと思うと、また涙が滲みそうになる。けれどワンリーと一緒にシェンザイに行くと自分で決めたから、もう振り向かない。
 メイファンは再びシンシュに向けて歩き始めた。

 ふたりは黙々と街道を歩き続ける。なんだか気まずくてメイファンは口を開いた。

「あの……もうしゃべってもいいですよね?」
「あぁ。かまわない」

 了承を得て気になっていたことを尋ねる。

「では、もう手を離してくださいませんか?」

 ワンリーは別の空間に移動する都合で手を握っていたはずだ。ところが聖獣殿を出た後も、ビャクレンを出てからも、ワンリーはずっとメイファンの手を握っているのだ。
 メイファンの申し出にワンリーは真顔できっぱりと言う。

「それはできない」
「どうしてですか? もう別の空間にいるわけじゃないでしょう?」
「空間は元に戻っているが、俺がそうしていたいからだ」
「意味がわかりません!」
「今はわからなくてよい。いずれおまえも同じ気持ちになる」

 相変わらず自信満々のワンリーに、メイファンは言葉を失った。結局手は離してもらえそうにない。
 メイファンは諦めて、ワンリーと手を繋いだままガイアンの南に位置する都シンシュを目指した。