ワンリーは青い麒麟のソンフーと一緒に、踊るような足取りでチンロンの周りをぐるぐると回る。しばらくそれを繰り返したあと、聖獣たちに告げた。
「陽の気は補充できたな? そろそろ降りよう。消滅したようにゆっくりと姿を消せ。ここに押し掛けられてはまずい」
「御意」
ソンフーが返事をしたと同時に、チンロンは咆哮をあげながら体を天に向けてまっすぐに伸ばす。なるほど。このまま徐々に消えたら天に昇っていったように見えるだろう。
メイファンには見えているので姿が消えたのかどうかはわからないが、聖獣たちが下降を始めたので見えなくなっているようだ。
ふと下を見ると、聖獣殿の脇で木の陰に隠れるようにして上を見上げているガーランとシェンリュの姿が見えた。
ワンリーはシェンリュにガーランが全てを失ったと言っていた。おそらく魔獣王が消えて、ガーランが帝をたぶらかしていたことが発覚したと思われる。通りには兵士の姿が多く見られた。
てっきり儀式の邪魔をされないためだと思っていたが、もしかして身を隠しているシェンリュたちを守るために人を遠ざけたのかもしれない。
儀式の間聖獣殿は結界で守られる。その間、人はそこにあるものが見えなくなる。しばらくは麒麟が出現したことで、テンセイの町はわき返っているはずだ。夜になればその騒ぎに紛れてシェンリュたちもテンセイを抜け出しやすくなるだろう。
すべては憶測でしかないけれど、ワンリーの優しい配慮が嬉しくてメイファンは思わず笑顔になる。ふわふわのたてがみに顔を埋めてつぶやいた。
「ワンリー様、大好きです」
「ん?」
振り返ったワンリーが、嬉しそうに小声で言う。
「そういうのは、シェンザイに戻ってからだ」