深く立ちこめていた霧が次第に薄らいでいく。
シェンリュを見送ったワンリーがメイファンの元に戻って結界を解いたとき、聖獣殿から甲高い咆哮と共に青白い光の柱が立ち上った。光の中に青い龍が姿を現す。その後を追うように青い麒麟も空へ踊り出た。それを見上げてワンリーが嬉しそうに言う。
「やはり彼女だったようだな。呪詛結界が解けた。すぐに行くぞ」
言ったが早いか、ワンリーはメイファンを背負って麒麟の姿になり空へ飛び立った。聖獣殿の上空で聖獣たちと合流する。青い麒麟がワンリーに近寄ってきて頭を下げた。
「ワンリー様申し訳ありません」
「気にするな。チョンジーの出方を見誤った俺の落ち度でもある。それより、両者大事ないか?」
「封じられていたので陽の気の補充はできませんでしたが、動いていませんのでそれほど消耗していません」
「そうか。加護の儀式には問題なさそうか?」
「はい」
「あの、ワンリー様」
先ほどからどうにも落ち着かないので、失礼だとは思いつつもメイファンは話に割って入った。もう一度チラリと地上に目をやって、後ろに首を向けたワンリーに尋ねる。
「もしかして、姿を消してないんですか?」
今やすっかり霧の晴れたテンセイの町では、あちこちで人だかりができている。皆一様にこちらを指さして騒然としていた。チンロンの咆哮を聞いた人々が外に出てきたのだろう。とりわけ宮廷内が大騒ぎになっていた。ワンリーは地上を一瞥したあと、しれっと言い放つ。
「あぁ。俺の姿は国家安寧の象徴だからな。魔獣の脅威が去ったことを知らしめて幸せを実感してもらおうと思ったのだ」
「え、でも私……」
「案ずるな。おまえの姿は見えていない。聖獣王が人攫いだと勘違いされては陽の気も薄れるからな」
ホッと胸をなで下ろしながら、メイファンは苦笑する。やはり聖獣様は打算的だ。
そんなやりとりの間も人の姿はどんどん増えていき、通りは笑顔の人々であふれかえった。中には拝んでいる人の姿も見える。ついさっきまで静まりかえっていたテンセイの町に、こんなに多くの人がいたことにメイファンは驚いた。



