チョンジーの実体が消滅した時、宮殿では太子の寝所でタオティエも消滅していた。チョンジーの制御を失い、気の食い過ぎで膨れ上がった体を維持できなくなったのだ。

 部屋の中に控えていた薬師や武官たちが、突然破裂し靄(もや)となって消えた術師に怯えてざわついた。

 騒然となる中、破裂したタオティエの体から流れ出した気は太子の体に戻っていく。程なく太子は目を覚ました。頬に浮かび上がっていた龍の痣も消えている。
 そばで見ていた帝は、術師が消えたことなど眼中にない様子で、体を起こそうとする太子に駆け寄り抱き起こした。

「おぉ、ジーフォン! チンロンの呪いは解けたのだな?」
「チンロン?」

 太子は不思議そうに首を傾げて帝を見つめる。

「なんのことかわかりませんが、私はガーランに妙な術をかけられて意識を失ってしまいました」
「ガーランだと!?」

 驚愕に見開かれた帝の目が次第につり上がり、鬼の形相へと変わっていく。そのまま振り返り、誰にともなく怒鳴った。

「ガーランはどこだ!」

 ちょうどそこに帝の命でガーランを呼びに行っていた武官が戻ってきておずおずと告げる。

「それが……。どこにも姿が見えません」

 帝はさらに激高し声を荒げた。

「探せ! 草の根分けても探しだし、ひっ捉えよ!」
「はっ!」

 武官たちはあたふたと寝所を出て行く。帝の怒りに怯えた薬師たちもその後に続いた。

「おのれ、ガーラン。余を謀(たばか)るとは。目をかけてやった恩を踏みにじりおって……!」

 帝はきつく拳を握りしめながら、ギリギリと歯噛みした。