次第に実体が消えていくのを感じながら、チョンジーはワンリーに支えられて意識を取り戻したメイファンを見つめた。
 ふいにこちらを向いたメイファンと目が合う。メイファンは驚いたように目を見張り、そして戸惑いに瞳を揺らす。その表情を不思議に思いながら、ふと気づいた。自分が無意識に笑みを浮かべていたことに。

 また、ワンリーに奪われてしまった。いつもこの瞬間は悔しさより虚無感を覚える。あれは自分のものだ。
 シィアンと共に過ごしてから、門の娘に対する独占欲が増したような気がする。シィアンは最後まで自分を受け入れてはくれなかったのに。その魂を受け継ぐメイファンもシィアンが予言した通り、自分を受け入れることなくワンリーを選んだ。

 宮殿にある池の畔で自分に向けられたメイファンの笑顔と言葉を思い出す。

『亡くなった後もこんなに気にかけているガーラン様の愛を奥様もわかっていたと思います』

 愛だったのだろうか。
 シィアンに対する独占欲も、その幸せそうな笑顔が他の誰かに向けられるのが不愉快なことも。
 シィアンにはそれがわかっていて、自分を哀れんだというのか? やはり愛などわからない。

 メイファンの笑顔が自分に向けられたとき、胸がうずいた。シィアンからは生涯に渡って、そして他の門の娘からも向けられることのなかった笑顔。

 その溢れんばかりに輝く陽の気がたまらなく不快だった。そして胸を刺す甘美な痛みが、たまらなく心地よかった。

 あの痛みは悪くない。来世の門の娘は必ず手に入れてやる。そしてあの甘美な痛みを独り占めしてやろうとチョンジーは百年後に思いを馳せた。