「シェンリュ、誤解なの。ガーラン様は……」
「なにが誤解なの?」
もはや聞く耳持たぬと言わんばかりに言葉を遮って、シェンリュはメイファンを睨む。
「あなたは私が欲しくても手が届かないものを簡単に捨ててしまうのね。あなたなら少し手を伸ばせば手に入れられるというのに」
シェンリュの周りに滲み出した真っ黒な靄が次第に膨らんでいく。激しい憎悪を感じて、メイファンは口をつぐんだ。
「私には手が届かなくても、ガーラン様が幸せになれるならそれでいいと思ってたのに。あなたがガーラン様を悲しませるなら許せない!」
そう言ってシェンリュは広い袖の内側に隠し持っていた剣をメイファンに向けた。危機感と驚きでメイファンは剣を見つめて目を見張る。それはなくしたジャオダンの剣だった。
ジャオダンの剣は人を傷つけることはできないと聞いた。けれど聖獣の加護で色々異変を感じている我が身が、果たして人といえるのかどうかメイファンには自信がなかった。
真っ黒な陰の気に取り憑かれているシェンリュには言っても無駄だとわかっていても一応なだめてみる。
「シェンリュ、落ち着いて話を聞いて」
「うるさい! ガーラン様を悲しませるおまえなど消えてしまえばいい!」
なだめるどころか余計に興奮させてしまったようで、シェンリュは手にした剣をメイファンに向かって突き出した。あわてて後ろに飛び退いたメイファンの前に横から大きな黒い影が飛び出す。いなくなったと思っていたあの黒犬の魔獣だ。
「ま、魔獣……!」
魔獣の姿を見た途端、シェンリュは血相を変えて霧の中に走り去っていった。どうやら魔獣に驚いたようだ。メイファンはホッと息をついて魔獣に歩み寄る。



