メイファンはワンリーの首にしがみつき、ふかふかのたてがみに顔を埋めて、空の上を滑るように進んでいく。少しして頬に当たる風が湿気を帯びているように感じた。

「まずいな」

 ワンリーのつぶやきを聞いてそっと顔を上げると、視界が真っ白に染まっている。目がおかしくなったのかと辺りを見回してみたが、やはり真っ白だ。

「これは、雲の中ですか?」
「いや。それほど高くは飛んでいない。濃霧だ」

 ワンリーはメイファンの体を気遣ってあまり高く飛ばない。人は地に住む生き物なので、あまりに高い空の上では体調を崩すらしいのだ。

「もう少し近くまで飛ぶつもりだったが、方角がわからなくなる前に降りるぞ」
「はい」

 テンセイへ通じる街道に沿って飛んでいたので、真下に降りれば街道に降りられるはずである。
 ワンリーがゆっくりと下降を始める。メイファンが再びたてがみに顔を埋めようとしたとき、体が後ろに引っ張られた。

「きゃあっ!」

 何が起きたのかわからないままに、メイファンの体はワンリーの背から離れて宙に放り出される。このまま地面にたたき落とされてしまうのかと、恐怖に目を閉じて顔を両手で覆う。しかし、そうはならなかった。
 ゆらゆらと体は揺れているものの、落下してはいない。目を開いてよく見れば、腰に毛むくじゃらの太い帯が巻き付いている。恐る恐る上向くと、翼の生えた大きな猿がいた。その猿のしっぽに捕らえられているようだ。

「メイファン!」

 悲鳴に気づいたワンリーが止まって振り返るのが見えた。

「ワンリー様ぁ!」

 手を伸ばしながら叫んだが、すぐにワンリーの姿は濃霧にかき消されていった。