メイファンとワンリーは挨拶をして二階にあがる。元々チェンヂュの両親が使っていたという二階の部屋はまるで宿のようだ。
 壁際には大きめの寝台があって、窓際には小さな円卓とイスが二客置いてある。両親が他界してしばらく使っていないという割に、床にはチリひとつ落ちていない。メイファンたちが出かけている間にリンユーが片づけてくれたのかもしれない。

 今までのように一日中歩いたりしたわけではないからかもしれないが、ちっとも眠くない。もしかして、と思ってメイファンは尋ねた。

「ワンリー様。私、眠くないんですけど、これも聖獣の加護のせいでしょうか」
「そうだろうな。眠くなったら寝ればいい。ジャオダンが戻るまですることもないしな」
「はい。眠くなるまでおつきあいいただけますか?」
「もちろんだ」

 そう言ってワンリーはいきなりメイファンを抱き上げた。

「え? なにを……」
「おまえが眠るまで添い寝してやろう」
「え、ちょっと……」

 有無も言わさずワンリーはメイファンを寝台に横たえ、一緒にふとんをかぶる。これではドキドキしてよけいに眠くならない。
 嬉しそうに抱き寄せるワンリーの顔が目の前にあって、メイファンは耐えきれず目を伏せた。ドキドキして顔が熱くなる。

「ワンリー様、子犬の姿にならないんですか?」

 今までは子犬の姿でいつの間にか添い寝されていた。なぜ今は人の姿のままなのか気になる。
 するとワンリーはいつものごとく、きっぱりと拒絶した。

「それはできない」
「いつも子犬だったじゃないですか」

 顔を上げて反論するメイファンをさらに抱き寄せて、ワンリーは言う。

「確かにおまえの腕の中は心地よいが、俺は抱かれるより抱く方が好きだと言っただろう」

 確かにそんなことを言っていたような気がする。

「それに……」
「それに?」

 まだなにかあるのかと首を傾げるメイファンに、ワンリーの顔が近づいてくる。なんとなく察して、メイファンはぎゅっと目を閉じた。鼓動は益々早くなる。

「子犬では口づけができない」

 そう囁いて、ワンリーの唇がメイファンのそれに重なった。
 ゆうべよりも濃厚な口づけに、やっぱりこれじゃ眠くならない。改めてそう思ったが、次第になにも考えられなくなっていった。