チェンヂュはリンユーを小突き返して、ワンリーとメイファンを紹介した。リンユーは改めて笑顔で会釈する。そしてメイファンに両手の上に載せた服を差し出した。

「チェンヂュに頼まれたの。身を隠すなら服を変えた方がいいだろうって」
「ありがとうございます」

 服を受け取って頭を下げると、リンユーはメイファンの肩をパシパシ叩いて笑う。

「いいのよ。あたしの古着なんだし。敬語も必要ないわ。チェンヂュから聞いたんだけど、ホントいい子ね」
「あ、はぁ……」
「ね、立ち話もなんだから、お茶でも飲みながら話しましょう」

 勢いに飲まれて呆然とするメイファンの手を引いてリンユーは勝手知ったる様子で部屋の奥へと入っていく。振り向くとワンリーが笑いながらついてきた。その後ろからチェンヂュも不服そうに口をとがらせてついてくる。

「ここは俺んちだぞ。なんでおまえが仕切るんだ」

 文句を言いながらも本気で怒っているようには見えない。きっとふたりは信頼し合っているのだろう。

 連れて行かれた奥の部屋は、男の一人所帯とは思えないほどきれいに片づいている。時々世話を焼きに来るというリンユーが片づけているのかもしれない。

 メイファンがお土産に買ってきた桃を渡すと、リンユーはそれを受け取り、さらに奥の厨房へ入っていく。手伝いを申し出るメイファンの背中を笑いながら叩いて「いいからいいから」と部屋へ押し戻した。
 ここは素直にお言葉に甘えることにする。

 部屋の真ん中に丸い机があって、男たちはすでに席に着いていた。メイファンもワンリーの隣に腰掛ける。ふと壁際に置かれた背の低い戸棚の上に目が止まった。
 そこにはロショクの守護聖獣シェンウーをかたどった金属製の黒い像が載っている。像の前には小さな皿に入れたお供え物の米や塩が置かれていた。金属製というのがロショクらしい。