おそらく最後と思われる卵粥をしみじみと味わって、お土産に買った桃をかかえてメイファンはワンリーと鍛冶屋に戻った。灯りは点いているものの作業場にチェンヂュの姿はない。食事でもしているのだろうか。
 メイファンは入り口を入ったところで声をかけた。

「チェンヂュさん、ただいま戻りました」

 すると作業場の横からチェンヂュがひょっこり顔を出した。メイファンたちの姿を認めると、ニコニコと笑顔を刻む。

「おぅ、おかえり。あの飯屋、うまかっただろう?」
「はい。また明日も行こうと思ってます」

 一緒に食べるわけにはいかないので先手を打っておく。案の定チェンヂュは少し不服そうに言う。

「なんだ。明日も行くのか? 遠慮しなくていいのに」
「すみません。本当においしくて、他にも色々食べてみたい物がたくさんありすぎて……」

 まるっきりウソというわけではない。食べ納めだと思うと、本当にどれもこれもおいしそうで、目移りしてしまったのだ。メイファンの言葉に気をよくしたのか、チェンヂュは自分のことのように嬉しそうに言う。

「そうか。それ、あそこのおやじに言ってやってくれよ」
「はい。そうします」

 メイファンは内心ホッとしながら笑顔で頷いた。
 その時、チェンヂュの後ろからぬっと手が伸びて、彼の頭を小突いた。

「ちょっと! いつまで立ち話してんのよ」

 メイファンが不思議そうに後ろをのぞき込むと、小柄な女性がチェンヂュの後ろから現れてニコニコと笑顔で挨拶をした。

「はじめまして。リンユーです」
「はじめまして」

 なんだかわからないまま挨拶を返すメイファンに、脇に押しやられたチェンヂュはリンユーを紹介する。

「隣の金物屋の娘だ。頼んだ覚えはないんだが、時々俺の世話を焼きに来るんだ」
「なによ。放っといたらあんたはご飯も忘れてるじゃないの」
「たまたま一回忘れてただけだろ」