鍛冶屋を出たワンリーは、チェンヂュに教わった飯屋を目指して歩いていく。ワンリーは食べないのでメイファンのための食事なのだろうが、ちょっと困っていた。

「あの、ワンリー様。実は私、おなかが空いてないんですが」
「昼飯を食いすぎたのか?」
「そんなことはありません」

 メイファンが少しムッとしたように答えると、ワンリーはピン来たように頷いた。

「あぁ、そうか」
「なんですか?」
「おまえは聖獣の加護を受けているからな。あとはテンセイの加護を残すのみだ。人より聖獣に近い存在になりつつある」
「ということは、ワンリー様のように食べなくてもよくなるってことですか?」
「そうだ」

 必要ないから空腹を感じないということらしい。
 忙しい時や家計が苦しい時など、食べなくても平気な体ならいいのにと思ったことはあるが、実際に食べなくてもよくなるとなんだか寂しい。母の作った卵粥が途端に懐かしくなった。
 まだ完全に聖獣と一緒じゃないなら食べることは可能なんだろうか。それが気になってメイファンは尋ねた。

「おなかは空いてないんですけど、食べることはできるんでしょうか」
「まだおまえの体は人間だからな。おまえが食べられると思うなら食べていいぞ」
「よかった」

 何気なく食べた今日の昼食が最後ではないとわかり、メイファンはホッとして笑顔になる。それを見てワンリーはクスリと笑った。

「なにが食べたいんだ?」
「卵粥です」
「あいかわらず卵が好きだな」
「それからお肉とお魚と野菜と果物。果物は桃がいいです。それから甘いお菓子やお煎餅にお饅頭も」

 食べたい物を次々に口にしていると、ワンリーが驚いたように口を挟んだ。

「おいおい。腹が減っていないのに、そんなに食べたら腹をこわすんじゃないのか?」
「でも、食べられなくなる前に色々食べておきたいんです」
「そういうことか。人はうまいものを食べると陽の気を発して幸せになる生き物だったな」

 メイファンの食欲の理由に納得して、ワンリーは微笑みながら頭をなでる。

「ジャオダンが戻るまでにはまだ時間がある。一度に食べずとも少しずつ制覇していこう」
「はい。では今日は卵粥にします」
「やっぱりそれか」

 半ばあきれたように言うワンリーにムッとして、一瞬視線がぶつかり、少しの間顔を見合わせる。しかしそれもなんだかおかしくて、どちらからともなく笑い始めた。そしてそのまま手をつないでチェンヂュの教えてくれた飯屋に入った。