鍛冶屋に戻ると、チェンヂュはすでに奥の作業場で作業を再開していた。カンカンと金属を叩く大きな音が響いている。

「少し早いが、そろそろ夕食の時間だな」

 そう言ってワンリーはチェンヂュに声をかけた。

「チェンヂュさん、仕事の邪魔をしてすまない。近所に食事をするところがあれば教えてほしいのだが」
「お? もうそんな時間だったか?」

 チェンヂュが作業の手を止めて表に目を向けたと同時に、夕刻を告げる鐘の音が響きわたった。外はいつの間にか日が傾き始めて、向かいの店の壁が橙色に染まっている。
 チェンヂュは額の汗を拭いながら、いたずらっぽく笑った。

「ワンリーさんの腹時計は正確だな。三軒先にうまい飯屋があるんだが、あと少し待ってくれればうちで用意するぜ」

 申し出はありがたいが、ワンリーは食べられない。すかさずワンリーは遠慮する。

「いや、そこまでお世話になるわけにはいかない」
「遠慮すんなって。大した物は用意できねぇが、ジャオダンが世話になってる人なら他人じゃねぇし」

 そう言ってチェンヂュは笑いながらワンリーの背中をバシバシ叩く。チェンヂュはワンリーの正体を知らないわけだし、気のいい人だとはわかっていても、ワンリーが聖獣王様だと知っているメイファンはちょっとハラハラしてしまう。
 食い下がるチェンヂュに、ワンリーは頑として譲らなかった。

「いやいや、本当に俺たちのことは気遣い無用だ。ちょっと行くところがあるので食事も済ませてくる」

 用事があると言われては、さすがに引き下がるしかないようで、チェンヂュは少し残念そうに言う。

「そうかい? じゃあ俺はもう少し仕事があるから、帰ったら声かけてくれよ」
「わかった。では、行ってくる」

 笑顔で軽く手を挙げて、ワンリーはメイファンの手を引いて鍛冶屋を後にした。