交渉が成立し、ジャオダンはチェンヂュに暇を告げ店の外へ出た。それを見送ってワンリーとメイファンも外へ出る。店の外でジャオダンは腰にぶら下げていた剣をワンリーに差し出した。

「これを。雷聖剣にはだいぶ劣りますが、丸腰では心許ないでしょう」
「ありがたい。そう何度もメイファンに助けてもらうわけにはいかないからな」

 それを聞いてジャオダンは、いたずらっぽく目を見開きながらメイファンに尋ねる。

「おや。メイファン様はそんなにお強いんですか?」
「いえ、私ではなくこの聖獣様のお守りが……」

 苦笑をたたえながら、メイファンは腰にくくりつけたお守りの袋を手のひらに乗せてジャオダンに示した。

「ワンリー様が危なくなったとき、このお守りから光があふれて魔獣の攻撃を躱すことができたんです」
「ほぉ。どんなお守りなんですか?」

 ジャオダンは興味津々の様子でお守りをのぞき込む。どうやら気になってしょうがないらしい。メイファンはお守り袋を腰から取り外して袋の口を開けてみた。

「私も何なのかは知らないんですけど、丸い石のような物です」

 袋を逆さにして中の物を手のひらで受ける。ちょうど親指と人差し指で作った円の大きさで、日を浴びて虹色に煌めく乳白色の丸い玉がコロンと転がり出てきた。
 それを見た途端、ジャオダンはメイファンの手を両手で掲げるようにしながら、驚愕の表情で手のひらの玉を凝視した。

「これは……!」
「え……なんですか?」
「メイファン様、これをいったいどこで」
「母からもらいました。私を拾ったとき一緒に産着にくるまれていたと聞いています」

 困惑気味に答えると、ジャオダンはブンブンと頭を振りながら独り言のようにつぶやく。

「いやいや、どこで手に入れたのかなど、この際どうでもいい」

 そしておもむろにメイファンの手を玉ごと握りしめ、切羽詰まったように目の前に顔を近づけてきた。

「メイファン様、これを私に譲っていただけませんか?」
「え、でもこれは……」

 必死な様子に気圧されながらも、メイファンは躊躇する。一度はお金のために自ら売ろうとしたこともあったが、母からもらった唯一の形あるもの。ワンリーからも手放すなとたしなめられた。
 おまけにテンセイでは危機から救ってくれている。