記憶をたどって考え込むメイファンに、ワンリーは懐かしそうに微笑んだ。

「俺はワンリー。おまえ、今の名はなんという?」
「(今の名?)……メイファンです」
「そうか。おまえに会えたことが嬉しくて動転していた。すまない」
「いえ……私こそ叩いてごめんなさい」

 こんなきれいな青年に、会えたことを動転するほど喜ばれて、なんだか気恥ずかしくなったメイファンは目をそらしてうつむく。
 しかし、何度記憶をひっくり返してもワンリーのことは思い出せない。
 自分がなにも覚えていないことは知っているようなので、本人に聞いてみることにした。

「あの、ごめんなさい。私はあなたのことを覚えていません。いつあなたと出会ったのでしょうか?」
「あぁ。謝る必要はない。人の魂は体が変わるたびに記憶をすべて失うからな。おまえと俺が出会ったのは今のおまえにとっては前世のことだ」
「へ?」

 そんなこと覚えているはずがない。
 呆気にとられるメイファンを気にもとめず、ワンリーはさらに続ける。

「初めておまえに会ってから五百年間、おまえの魂は何度も体を入れ替わり、ただ一度を除いてずっと俺の妻だったのだ。さぁ、共に行こう。わが妻、メイファン」

 そう言ってワンリーはメイファンの手を取った。その手をふりほどこうと、メイファンは後ずさる。

「え、いや、ちょっと。いきなりそんなこと言われても……」
「なんだ? 俺に会う前に誰かの妻になっていたのか?」
「いや、それはないけど……」
「ならば問題ないではないか」
「問題あります! さっき出会ったばかりの人といきなり結婚なんてできません!」

 そもそもワンリーは人ですらないし。その辺りを前世の自分は疑問に感じなかったのだろうかと不思議でならない。
 ワンリーは余裕の笑みを浮かべて自信満々で言い放った。

「案ずるな。おまえはいつも最初はそうやって拒んでいるが、いずれ俺の妻になっている。必ず俺に惚れさせてみせる」

 いったいどこからそんな根拠のない自信が湧いてくるのか。王という立場のなせる技か。
 メイファンは言葉をなくして、苦笑に顔をひきつらせた。