手紙のことを切り出せないまま、いつもの朝を迎えた。

「矢萩さん、行きますよ」

「はーい」

いつものように玉置常務と一緒に家を出た。

昨日見たテレビ番組の話をしながら会社に行くと、会社の前に誰かがいることに気づいて立ち止まった。

グレーの半袖パーカーにジーンズ姿の男の人だった。

彼はキョロキョロと落ち着かなさそうに首を動かしていた。

誰かを探しているのだろうか?

「玉置常務、あの人は何なんですかね?

不審者なら警察に電話した方が…」

そう言ってカバンからスマートフォンを取り出した私だったが、玉置常務の様子がおかしいことに気づいた。

「玉置、常務?」

玉置常務の顔の前で手を上下に動かして見るけれど、彼はそれに気づいていないようだった。