午前2時。
裸で眠っている私を起こさないよう、静かに身支度をして出ていく彼。
カチャリと鍵をかけ、玄関ドアの郵便受けから鍵を投げ入れて帰っていく。
キーホールダーも何もついていない、裸の鍵を。
 
 
「アパートの合鍵、あげるよ」
「帰る時に郵便受けから投げ入れるから、いいよ。
 大丈夫、ありがとう」

  
一瞬の間をおいてこたえた彼。
あぁ、そうか。
「これどこの鍵?」なんて奥様にたずねられたら困るものね。
 
「あーー・・・じゃぁさっ。
 下駄箱の上に置いておくから、これを使って。
 私のはキーホルダーとかたくさん付いてるから
 落ちた時に煩いし、ねっ」
笑顔で言ったつもりだけど、ちゃんと笑えていただろうか。
 
 
 
 
 
遠くで鳴る着信音で目が覚めた午前5時。
ベッドから飛び出していく彼。
二人ともかなり酔っていたので、こんな時間まで眠ってしまった。
午前5時に夫が帰っていないと、奥様は電話をかけてくるとは聞いていた。
本当に5時きっかり。
それまで起きているんだろうか、それとも早起きなのだろうか。
私はいつもどおり寝たふりで、彼が投げ入れる鍵の音を待つ。
 
「行かないで、寂しい、せめて朝まで一緒にいて」
 
と、叫び出したい気持ちを涙でやりすごすために。
他人様の夫とこんな関係になっているくせに泣くなんて、どうかしている。
私には寂しがったり、悲しむ権利はない。
そんなのわかってる。
性欲の捌け口だって、わかってる。
 
 
 
 
 
「おはよー」
 
朝が来るまで彼はいない。
たった平仮名3文字なのに、ね。