長井が席に着いて、おはようと声をかけて来た。
私がおはようと返す前に、彼は、由奈ちゃんに捕まって、質問攻めにあってる。
彼の周りには、いつも人が集まって来て、笑い声が絶えない。
「ごめん、ちょっと遅れるかもしれないんだ。打ち合わせ入っちゃって」
「やだーっ、長井さん。主役なのに。でも、長井さんなら許せるかも……みんな長井さんの話で盛り上がりますから」
由奈ちゃんとも、すっかり打ち解けて、ずっと前から知り合いみたいだ。
私があそこまで長井と親しくなるのに、もっと時間がかかったはずだ。
そんなことより、この間、部長の前で言ってた、経理と法務担当者とユニットを組んでやるって案件、何か知ってたら、教えて欲しいんだけど。
私は、長井が話を切り上げるのを待った。
私のデスクの上には、昨日お亡くなりになったパソコンと、ほとんど変わらない機能の古いパソコンが乗っている。案の定、立ち上がるまでが時間がかかり、それだけで一仕事だ。
まだ話してる。早く確認したいんだけど。
研修の内容も大幅に変更になるだろうし。
由奈ちゃんがずっと居座って、長井のこと捕まえたまま、離さない。
ほんと、のんきな奴だ。
こういうどうでもいい話にも、苛立つそぶりも見せず、本当に忍耐強く付き合っている。だから、彼はお年寄りや、気難しい職人さんたちでさえ、素直に心を開かせてしまう。
私は、彼に質問するの
を諦めて、後藤課長に頼まれてた、リーガルチェックの方を先にやってしまおうと思った。


