「亜湖さん、大丈夫ですか?」
昨日のモヤモヤした気分から抜け出せず、次の日の朝も、艶かしい場面が回想シーンのように繰り返し脳裏によみがえって来た。私ったら、何やってるんだか。
朝、長井のドアップが浮かんで目が覚めたからって、どうだと言うのだ。
「ふう~」
どうして長井なんだ。
振りだけど付き合ってるなら課長の顔が浮かべばいいのに。
何でだろう。
「もう、ちゃんと聞いてますか?先輩」
「ええっ?ああ、由奈ちゃんか」
由奈ちゃんが、ペンと紙を持って立っている。
「4500円です」
「何、それ?」
私なんか買ってくれって頼んだっけ?
「何それ、じゃありません。歓迎会です。長井さんの」
「なんで長井の歓迎会なんかやるのよ。長井は、営業の人なんでしょ?」
「そうですけど、亜湖先輩、長井先輩はすぐ横に座って仕事してる同期だって言うのに、酷いこと言うんですね」
「だって、いまさら歓迎会だなんて……いったい何度、長井を歓迎したのよ?」
と言ったところで、長井本人が課長とフロアに入って来た。
「先輩、この法務課に来たのは一度目ですから、セコイこと言わずにさっさとお金を払ってください。あっ、そうだ。プレゼント渡すからあと五百円くださいね」
由奈ちゃんは、私が財布からお札を取り出したと同時に、五千円札を引き抜いて持っていった。まあ、彼も私に歓迎されるなんて、歓迎されすぎて白々しく感じるだろうけど。
「あ、それから亜湖先輩、やっぱり来ないって言っても、このお金は返しませんよ。今度は、絶対来て下さいね」
「わかったわよ」
管理部全体の歓迎会だから、人数いるはず。長井と離れて座れば、話さなくても済むだろう。


