「ごめん、ごめん。君とはずっと前からこの距離だったから、つい近づきすぎた」クスクスと笑い声がする。笑ってる場合じゃない。心拍が上がりすぎてる。
私は、いたたまれず、無理やり椅子を下げて彼に場所を譲った。彼は、私の代わりに手際よくショートカットキーを打ち込んで、パソコンの反応を見てくれた。
長井が真剣に作業してる横顔を、顔を私は、じっと見つめてる。一生懸命何かに集中してる顔が一番好きだった。前からパソコンに限らず、機械はみんな、得意だったもんね。
「やっぱり、ダメみたいだな。システム呼んだ方がいいかも」
一通り、作業すると長井は諦めるように言った。
そして、振り返って同意を求めるために、長井は、私のことを見てる。
そんなに、うれしそうに、満面の笑みで見つめる必要なんかないのに。
確かに、彼と二人でいるとき、作業中の彼の邪魔をして、こんな風に後ろから抱きしめてキスをした。
抱きしめて、キス?
ダメだって、今はもうそんなことしないって。
そんな、もう忘れてしまってたのに、同じことすると思い出すのか。
懐かしい思い出と同時に、急に柔らかな彼の唇の感覚が、キスの鮮かな映像と共に、いきなりよみがえって来た
私は、その夜も彼の幻想から逃れられず、何度も彼にキスをされた夢を見た。


