季節の懐石

食前酒、箸附、先冷菜、寄席盛り、お椀に向附……

お品書きには、ずらっと料理の名前が並んでる。


長井が、グラスにビールをつごうとしてる。


「ちょっと、胃の状態は?大丈夫なの?」


接待の相手が、すごくお酒が好きな人だと、元からお酒の嫌いじゃない長井は、自分の体のことを忘れて付き合ってしまう。成績上げるためもあるんだろうけど、無理したんだろうな。


「もう、何年も前のことだし、毎年ちゃんと検査もしてるから、心配するな」


「心配するなって言っても、そんなことになってたなんて」
ずっと、そばにいれば、気が付けたかも知れなかったのに。


「そうだよ。こんなことになったのも、亜湖がいなかったからさ」
開き直って長井が言う。

「長井……」


「でも、亜湖と仲直りできてよかった」


「仲直りするって、友人に戻るっていう意味だと思った」
私は、違う意味にとって、ただの同僚に戻るんだと思って、ショックを受けた。


「友達?なんでだよ。俺は、亜湖のこと1度も友達だと思った事なんかないよ」


「そうだったの……」


「だって……亜湖を前にして、じっと触れないで耐えてるなんて、俺には無理だ」