私は、違うってと首を振る。


「彼、君にどんなふうに触れたの?」


「付き合ってないって、あなたもわかってるでしょ?」


「付き合ってなくたって、キスするかも知れないだろ?」


ドン、と壁に押し付けられた。両方の手で私の頭を押さえつけ、今までされたことのないような乱暴なキスをされる。体が壁に押し付けられ、身動きができない。


「どこに触れたの?唇?それとも首筋?はっきり言えよ」
顔を反らしたら、無理やり顎を上に向けさせ、強く唇を押し付けられた。


「長井……違うって」


「それとも、見えないとこ?服の下?答えろよ。答えないと、ここで脱がすよ」


「ちょっと、違うの。何もされてないって」


「そんなはずないだろ?」服の下も確かめるつもりなのか、彼の手が私のシャツを引っ張り上げて、直に侵入してきた。


「長井、待って、落ち着いて。本当に何もないってば」


「信じらんない。亜湖目の前にして、あの人が、何もしないわけない」




――失礼します!!




声とともに。若旦那が入ってきた。後ろに、部屋の係の仲居さんも連れてきている。


「あっ、そのままでいいですよ。気にしませんから。お料理お持ちいたしました」


私は、部屋に入ってすぐのところで、長井に壁に押し付けられたまま、唇も塞がれていた。