彼は、部屋の鍵をガチャガチャ突っ込んでドアを開ける。

ドアを開けて、
「どうぞ」と私を先に行かせた。


「気が付いてないだけで……何が言いたかったの?」
スリッパを揃えてから、私は彼の前に立った。


「長谷川さんに何て言われてたの?」

言い方は、そっけないけど、感情はそうじゃないと思う。
彼は、荷物を置くと詰め寄ってきた。



「お付き合いしてる振りをしてくださいって、頼んで受けてもらっただけです」



「彼は、なんて言って引き受けたの?」


なんて言ったかなんて、意味ないのにと前置きしてから言う。

「なんで振りなんかするんだって、振りなんかやめてちゃんと付き合えばいいじゃないかって?」


彼の目が鋭くなった。
「ええっ?そこまで言われたの?あの人に?亜湖は、それで、付き合う振りだけでいいって断ったの?」


「そうよ」


「お前、もう、何てこと頼むんだよ……」長井の腕が私の体をとらえた。彼は、私の肩の上に頭をのせている。


「課長には相談に乗ってもらったの。どうしたらいいかって」


「相談?亜湖、あの……振りなんか止めてちゃんと付き合えって意味わかってる?」


「ちゃんと付き合うって……付き合う?彼が?
あっ!ええっ?冗談で言ってたんじゃないの?
うそ。どうしよう。本当に付き合ってもいいってこと?
私、課長にそんなこと言われてたの?」



「あっぶねえ。もう、何考えてんだよ」


「ごめん……」


「課長に何かされなかった?こんなふうに……」
彼がかがみこんで来て、そっとキスをした。