「さっき、外を回ってみて私もそう思ったわ。コンクリートの壁じゃ、虫の声も川のせせらぎも聞こえないもの」
「そうなんです。亜湖さん、わかってくださって、うれしいです。あっ、でも、その分。温かい食事を部屋まで運ぶのは大変ですし、部屋と部屋との距離がありますから、布団を敷く時間は戦争も対ですけど」
いつも思うけど、食事を終えてお風呂から帰ると、小人さんの仕業のように、いつの間にか部屋に布団が敷かれてる。裏方は、大変なんだろうなと同情する。お客が便利だなあって感じるサービスは、働く方はそれだけ大変なんだ
「従業員もプランを変えることに、誰も文句を言ってくる人はいませんでした。みんなここで働くことが好きなんです。だから、『私たちの負担が減るからといって、あんなふうにしなくてよかったです』って言われたときは正直驚きました」
「そうですか、よかった。そう思って下さって。長井がよく言ってるけど、自分の建物だと思えなきゃ、愛着を持って働けない。そのとおりね」
「はい。おかげさまで。喜んでいただいてるんです。他にも、素泊まりのパターンも用意してるんですけど、一番人気があるのは、離れなんです。お客様の方は、せっかく来たから、わがままに全部やってほしいって、おっしゃっていただいてます。それから、こんな田舎ですが、お料理も自信がありますから、楽しみにしててください」
「はい、来る前からホームページを見て期待を膨らませてるわ」
「ありがとうございます」


