長井は、私についてくることはなく、一人で部屋にいると言ってごろんと横になってしまった。
「行ってくるね」と言っても、

「ああ」と振り返りもせず、返事を返してきた。

思いっきりすねてる。

ああいうときは、5分でなだめるのは到底無理だ。
頼まれた用事を済ませてから、長井に構おう。


急いで帰るねと、鍵を閉めながら長井のことを考えてた。


その反面、私は、用事ができて少しほっとしている。

このまま、朝まで長井と二人きりだなんて、耐えきれるかどうかわからない。
期待が大きすぎる分、不安も大きいのだ。

今まで、想像の中の長井ばっかり相手にしてきた。
頭の中の長井は、あんなふうにふてくされることもない。



「少し、パソコンをいじって作業すれば落ち着くかな」


「亜湖さん?」若旦那だ。


「ほんと、すみません、せっかくお休みのところ」

「いいのよ。少しでもやれることがあれば、進めておきましょう」

この仕事は、彼が一生懸命頑張って、まとめた仕事だもの。


自分の実績を人に誇る人じゃないけど、前の担当者とのことで、うちの会社に相当不信感を抱いてたはずだ。その相手に、ここまで打ち解けて、信頼を勝ち取ってもらうのは、並大抵のことじゃできない。


だから、私は彼の力になりたくて、こうして仕事をしてる。


私だって、プライドがあるから長井に、自慢気に言ったりしないけど。

彼の仕事を尊敬して、応援したい気持ちは、誰にも負けない。
だから、トラブルになりそうな目があれば、できるだけ摘んでおきたい。


「ほんと、助かります。こうしてアドバイスいただけると、無理して我がまま通してよかったと思います」

「どういたしまして」