「高い建物を建ててしまったら、この景観の良さは台無しになってしまうわね」

「そうだろう?だからもったいないんだ。旅館の印象は、まったく変わってしまうし、商売のやり方も、みんな変えなければならない」


「そうね。図面だけ見ると分からないこともたくさんあるのね」

「うん。広い土地に、建物がこれだけしかないのは、土地がもったいないって思うかもしれないけど、

集客だけを見込んで、客室をたくさん増やしてしまうと、自分の首も絞めることになるかも知れないんだ。

そういう旅館なら、このあたりにもたくさんある。だから、そことも競合してしまう」


「そうね。私もそう思うわ。それで?旅館の側はそれで大丈夫なの?」



「ああ、若旦那が、伝統を守って今まで通りのやり方を続けるんだって」


「そう、じゃあ、長井とも意見が合って、よかったね」

大体はね、と断ってから

「地形を十分生かして、ゆったりした空間と、時間の流れを感じられるようにしたいと思ってる。

離れに泊めてもらってよくわかった。大切な人と自然に囲まれて、ゆったりと過ごす時間。これは、何事にも替えられない。

それにね、この仕事、設計部の矢野が引き受けてくれたから、考えられたちょっとユニークなものになると思うよ」


「楽しみね」


「ああ」