そろそろ、恋始めませんか?~優しい元カレと社内恋愛~

「痛っ……」


「長井さん、ここでいちゃつくなら、ドアから離れて下さいよって、教えてあげたじゃないですか」


旅館のハッピを着た男性が笑ってる。二十歳くらい。私達より年下の男性だ。


「あ、あの……長井さんの奥様ですか?」
彼が、私の方を見て言う。


「まだ、違うよ」


「すみません。お邪魔してしまって」

男性は、嬉しそうに笑ってる。
この人が、女将さんの息子さん。将来旅館を引き継ぐ人だ。



「ほんとだよ。そんなことより、俺に、何か用か?」



「ちょっと、設計のことで確認したいことがあって……」


「後でもいいか?彼女が、外をみたいっていうから」



「図面持ってですか?」


「すみません、許可もなく、敷地内をうろついて。
私は、法務部の緑川と申します。契約に当たって、いくつか確認しておきたいことがあって……」私は、丁寧に謝った。



「えっ?法務部?」



「そう、せっかく来たのに、図面や契約書の確認の方が先だと」



「ええっ…長井さん、お仕事させるつもりで、その方お呼びしたんですか?」



「そんなつもりじゃなかったけど、じっと待っていられないんだろ?」
私は、長井にそうかもしれないと、笑って見せた。


「そうですか。法務部の方ですか。ちょうどよかった。分からないことがありますから、質問していいですか?」手に持った書類をめくりながら、彼は私に話しかけようとした。



「だめだ。後でな」



「分かりました。では、お部屋に伺ってもよろしいですか?」



「いいわけないだろ!!」
二人とも、大笑いして別れた。