「亜湖……何か言ってくれ」
彼の言う通り、最高のシチュエーションだし、お互いの気持ちだって妨げるものは、何もないのだけれど、最後に彼と体を重ねてから、ずいぶん時間がたっている。
長い間、彼とこんなふうになることを、想像しすぎたおかげで、ようするに、気後れして恥ずかしいのだ。
例えば、彼の記憶の中の私の姿は、三年前のものだし。見た目ではわからないかもしれないが、どこか違っているかもしれない。
「設計図出して」
「はあ?」
気の毒に思えるほど、がっかりしてる。全身で落胆の色。
ごめんね。私の方は、まだ心の準備ができてない。
それはそうか。
男なんて、良くなることはあっても、悪くなることはないもの。
長井の方は全然平気なのね。
「出来てるんでしょ?明るいうちに建物全体を見ておきたいの」
私は、図面を出してとせがんでみる。
「あの……亜湖?今日は休日で、俺らは最高の部屋と温泉が待ってるんですけど」
まったくその通りよね。
でもいきなり、こんなところに二人っきりにするあなたも悪いのよ。
「設計図の書き直しで、何日遅れが出てるの。今日もオフィスでは、休日返上でがんばってるわ。だから、浴衣に着替えるのは、もっと後ね」


