「こちらでございます」
中居さんに案内してもらった部屋は、本館から少し離れた独立した建物だった。
本当に、本館と離れている。
本館から見えない様に、専用の庭と露天風呂で視界が遮られている。多分、この旅館では、一番いい部屋の一つだろう。
「お食事は、のちほどお持ちいたします。お部屋のお風呂は、明日の朝までご利用頂けます」
純和風のチリ一つ落ちてない、清潔に保たれた部屋。庭で隔離されているから、しんと静まり返って、ここだけ別世界だ。
「すごい部屋だね」
「ああ、女将がここにしてくれたんだな。後でお礼を言っとくか」
「素晴らしいお部屋だけど、部屋は一つだね」
だだっ広い部屋だけど、見渡した限り、部屋はここだけらしい。
「あの……亜湖?俺、今日恋人を連れてくるって言ったから」
「旅館の人に?」
「うん。設計部の奴は、土日で帰るって言ったから、誰か連れて来たい人はいないかって聞かれて……俺、ずっと好きな子ならいるって……あの、でも、それは俺の考えで……」
「ふ~ん」
「亜湖?」
「何?」
「もし……俺と同じ部屋が嫌なら、押し入れにでも寝るから」
「いいわね、それいい思い出になる」


