「亜湖、どこか行きたいところはある?車はあるし、一応ナビがあるから、好きなとこ行けるよ」
私は、笑いながら答える。
「ありがとう長井。でも、ここ私の地元だよ。友達に会いたいけど、会いに行ったら、みんなで集まって話し込んで、私帰ってこられなるよ」
「そっか、それは、ダメだ」
「うん」
S温泉は、古くから湯治場として知られた温泉地だ。地元の駅からも、山道を車でしばらく走り続ける。長井とこうして、二人で車に乗るのも不思議な感じだ。
私は、温泉にも興味があったけれど、それよりも彼が仕事をしている姿が見たいと思った。
「お客さんと関係がこじれてダメになりかけてたのを立て直したんだってね」
「ええっ?ああ、契約のこと?」
運転をしながら、何気なく彼は答える。
「そんな、俺は、話を聞いただけで、別に大したことしたわけじゃない」
「わかるよ。長井に話を聞いてもらってるうちに、いつの間にか長井のペースになってるんだよね」
「なんだ、それ。そんな言い方すると、悪いやつみたいじゃないか」


