――亜湖ちゃん、長井から何か聞いてる?
太田さんからの内線電話だ。
「いいえ。まだ。何も連絡ありません」
――そう。こっちはできるだけ削れるところは、削ったから。どうしても、資材を発注してしまったところは、仕方ないけどな。
「ありがとうございます」
設計図の書き直し、前任者とは契約した時点で、資材が発注されたり、人の手配が始まっている。だから、設計が変わってしまったことによる、お金のロスは、仕方ないことだとお客様にも納得してもらった。
けれど、少しでも負担が減ればと、大田さんも、いろんな部署と掛け合ってくれた。
長井から連絡はなかった。
長井は、何かあるたびに出かけていて、今現地に行ったきりだ。
――そっちに資料持ってくから。一応、チェックお願い。
「はい。お待ちしてます」
経理部の審査が終わっても、法務の方でも、契約に不備はないか、建築基準法、旅館業法に抵触していないかチェックをする。
「データありがとうございます」
私は、二人分のコーヒーを入れて、一つを太田さんに渡した。
「どうも、ありがとう」
「どうですか?」
「建築確認を出す前だったとしても、一度契約してしまってるから、どうしても削れない部分があって」
「はい」それは、承知している。
「何とか抑えようと思ってるけど、部材の発注が済んでるものの中で資材部と、どうしても調整のつかないものがあって」
「海外事業部は?」
「海外?資材部」
「ダメですかね?」
「ああ、一応確認してみる。長谷川さんに聞けばわかるか」
「はい」


