課長と別れて、一人で家に通じる道を歩いていた。
夜になって、月が明るい、ひんやりした空気の中、私は長井のことを考えてた。


課長に言われた通り、私の悩みは長井に関することだ。


彼に会いたい。

彼に会えなかった時間が、悔やまれるというのは……
課長に言わせれば、ただ、彼に会いたいって言ってるだけだ。



今日は、月がきれいに見える。
長井も今頃、仕事を終えて、帰るところかな。


携帯を取り出し、彼の番号をダイヤルする。
やっておけばよかったことなんて、所詮、こいうことだ。


呼び出し音が鳴り、彼の声を待ちどうしく思って待つ。

――もしもし、亜湖か?どうした?


「どうもしないの。どうもしなかったけど、私どうしてこうやって、あなたに電話しなかったのか、今、ずっと後悔してるの」


静かに頷く彼の声が聞こえる。


――俺もだよ。意地なんか張らずに、無理にでも亜湖に会いに行けばよかったって思ってる。


「うん」

――早く君に会いたい。

「うん」

こんなに素直な気持ちで、彼と話せたのは本当に久しぶりだった。