「なんか、飯でも食うか?」
課長は、さっきのことなんかまるで何もなかったみたいに笑ってる。
「ここでいいか」
歩きながら適当に目についた店に入った。
イタリア料理の店らしい。
パスタや、リゾットの名前が店の壁に貼り付けてある。
課長は、
「少し飲むか?」と聞いてきたので、はいと頷いた。
よかった。課長はいつもと同じだ。
「じゃあ、適当に白のワインを一本。
私に、料理は何でもいい?と聞くと数品をメニューの中から選んだ。
「まだ、しゃべらなくていいぞ。少し食べてからにしろ」
「はい、はい。わかってます」
トマトとモッツァレラチーズのカプレーゼが来て、ジャガイモのニョッキと熱々のラヴィオリーニオーロラソースをいただく。
私は、お腹が落ち着いたところで口を開く。
「どうして、ちゃんと彼の話を聞いてあげなかったのかなと思うと、残念で……」
「じゃあ、聞くけど3年前に別れていなければ、思い通りになってたのか?」
課長は、トマトのブルスケッタを器用に口元に運ぶ。
私は、首を振る。
「ん、そうだよな」うまいって顔だ。
「課長は、どっちも同じだって言いたいんですか?」
「少なくとも、今から終わった事を悔やんでも、仕方がない」
「その通りですけど、もっとやりようがあったと思うと……」
ジャガイモのニョッキを一つ口に入れる。もちっとしておいしい。
「その、やりようって何だ?」
課長の目が鋭くなる
そこ、考えるとこなんですね。
「えっと、えっと、ああ……課長。どうしよう……」
私は、課長に取り分けようとした、ラヴィオリーニオーロラソースの器を持ったまま戸惑った。


