「何か、考え事か?」どうしてわかるんだろう?
やっぱり、課長にはバレてるみたい。
「私、そんなに悩んでるように見えますか?」
結構、表情に出さない様にするのは上手いと思ってるのに。
パソコンの電源を落とし、机の上を急いで片づけた。
私が帰る支度をしているところを、課長は面白そうに眺めている。
軽く口元に手を添えて考える振りをする。
課長がよくするポーズだ。
「そうだな。行き詰まってるって感じかな」
「課長、何でもそうやって正直に当てないでください」
思わず笑ってしまう。
「じゃあ、もう一つ。結論だけ言おう。どっちにしろ、些細なことだろう。くよくよするな」
ほら、私が悩んでることも、それに対する結論も分かってる。
「だから、一言で片付けないでくださいよ、課長。私は、課長と違って何もかも、最初からわかってるわけじゃないんです」本当に。課長と話してると、悩んでも仕方ないという気になってくる。
「だったら、まあ、話してみな」
そんなまっすぐな目で見られると、緊張するんですけど。
「えっと、私、誤解してたんです。彼の言葉を。私との将来を考えてないと思ってたんです。なのに、それは私の間違いだって言われて……」
「それの、どこが行き詰まってるんだ?」
課長まで、オーナーとおんなじことを言う。
「だって、私が間違って過ごしたた時間って、まるで意味がないかも知れないじゃないですか?」親身に話を聞いてくれてるけど課長は、私のことアホだと思ってるだろうな。
「何で、そう思うんだ?」
「そういう質問される方がおかしくありませんか?だって、誤解しなければずっと付き合っていられたのに……」
課長は、メガネの位置を指で直した。表情が急に引き締まる。
「まあ、そうだな。亜湖?」
「はい」
「そんなに悩んでるんなら、いっそのこと俺が方をつけてやろうか?」
ふんわりといい匂いがする。何だろうと顔を上げた。
長谷川課長がグッと距離を詰めてきた。
何度、瞬きしても、課長の体が触れてしまう距離にいる。
下がろうと思っても、机が邪魔で身動きが取れない。
ええっ?ちょっと、待って。どうなってるの?
「冗談はやめて……下さい」
何がどうなったのか分からないけど、課長の顔が目の前に迫ってる。
彼の息が私の顔にかかる。
それなのに私は、金縛りにあったみたいに何もできない。
「亜湖、別れさせてやろうか?そいつと」
耳元でなに言ってるんですか?
指で、軽く顎に触れられ、すーっと課長の整った顔が近づいてくる。
ちょっと待って、まずい……
顔、反らさなきゃ……唇に触れちゃう
「ひいっ!!」
「アホか、お前、なんて顔するんだよ!」
ゴツンと額に頭突きを食らった。
「何するんですか……」
課長は、本気で頭をぶつけてきた。
「ほーら。こういう時は、もっと色っぽい顔しろ!!やる気なくした。やっぱり、お前には無理だ。早く支度しろ行くぞ」
課長は、私の頭をポンと叩いてフロアを出て行った。
何事もなかったように。何だったの?


