そろそろ、恋始めませんか?~優しい元カレと社内恋愛~

手にした資料をさっと見て、私は、ため息をつく。

「手付の後払いですか?」
処理自体は珍しくも何ともない。


「ああ、そうなんだ」
太田さんもわかってるのだろう。気まずい空気が流れる。
ひょっとして、これ以外に面倒なケースが隠してあるとか?


「えっと、ご存じだと思いますが、手付の分割払いにより契約を締結させることは¨信用の供与による契約の誘因行為”に当たるとして禁止されています」


「そうだよな。やっぱり、待つしかないか」


「はい。手付金の準備ができていないのに、説得に負けて契約を締結して、後日、契約の解除をめぐりトラブルになることがありますから」
長井だって、そんなことわかってるでしょう。


「わかった。ありがとう」


「いいえ。このくらいならいつでも言ってください」
私は、長井を真似て営業スマイルを浮かべて見た。


「亜湖ちゃん……やっぱり諦められないよ。長井のやつ、ずっと君にくっついたままだし……また誘ってもいいかな?っていうより、今夜どう?」


「仕事ですか?」


「そうそう、仕事も絡めて今度どうかな?」


「ええっと……」


太田さんは、いきなり近づいてきて私の手を握った。
両手でぎゅと。


何だこの人、仕事で誘ってるんじゃないの?


「太田さん?もう、よろしいですか?」
仕事じゃなければ、行かない。


「えっと、今日なんてどうかな?亜湖ちゃんに仕事の話も聞きたいんだけど」


「今日ですか?」
どっちなの?

「うん、ちょうどあいつもいないし」
長井がいるとまずいの?どうして?



ドンドン、とノックする音がした。
太田さんが返事をする前に、長井が入ってきた。



「そんなとこで、何してんの」