家に帰ってから、私は泥のように眠った。
キリキリと続いていた、痛みみたいな感覚がやっと理解できた。
『お前の彼氏、彼女と別れられてよかったって酔った勢いで白状してたぞ』
多分、出張から帰ってきた会社の先輩だったと思う。
『そうですか』
『亜湖ちゃん、元の彼氏になんか言うことはない?っていっても、あいつ向こうに行ってもモテモテだからとっくにこっちのことなんか忘れてるぞ』
『そんな話、止めてください。もう関係ありませんから』
『亜湖ちゃん、今日は、飲もうよ。今日は俺がついててなぐさめてやるから』
『なぐさめてくれる相手なら、たくさんいますから気にしないでください』
その時の顔は、はっきり覚えてる。
驚いた顔してた。そして、困った顔。
別れようと思ってる女に、ついてこられたら迷惑だったろうな。
『俺と結婚したいってことだよね?えっと、ごめん、俺そこまで考えてない』
この言葉を聞くまで、私は長井の優しいまなざしも、言葉も、愛情も疑いなく、バカみたいにみんな信じてた。
でも、この言葉で、突然気付かされたのだ。
彼が思ってることと、彼の口から出てくる言葉って違うんじゃないかって。
それまで、長井が私のことを愛してくれてると思ってた。
愛してない相手に、愛してるなんて言える人がいるなんて知らなかったし。
それでも、もしかしたらと期待してた。
離れてしまって寂しいって言葉、彼が言ってくれるんじゃないかって。
『彼女と別れられてよかった』まさか、こんな言葉を聞かされるとは思ってなかった。


