「亜湖、急ぎすぎたかな。ごめん。嫌な思いはもうさせないから。俺、どうしても元に戻りたい。亜湖とこうして抱き合って眠ってた頃に」
私の希望も、ずっと長井とよりを戻したいのだと思っていた。
でも、それじゃダメと私の心の深い傷が、そうするのを躊躇させる。
彼は、向こうの部屋が寝室だからと、私をおいでよ、とそっちに誘う。
私は、その場から動けないでいる。
そうして優しく触れる指も、前と同じようにしてくれた、切ないキスも同じなのに。
キスして抱きしめようとしてくれてる人の、腕の中に飛び込むことができない。
あなたは、前のまま。
そのままのあなたなのに。
さっきまで、鼓動が早くなってあなたに飛びつきたいと思ったのに。
今なら大丈夫、出来る。そう思えたと思ったのに。
これから彼の手を取って、
いよいよ元彼じゃなく、恋人になろういというときに、
私の体が、彼の体に、磁石の同じ極のように反発する。
「ごめん」
彼が、驚いて私の顔を見る。
「亜湖?」
「ごめん、長井。今は、そういう気分になれない」
今、長井と寝ても、大切な思い出を壊してしまう。
今まで、私を抱きしめてくれてた手は、自分の頭を押さえてる。
「ごめんってなに?なんで謝るの?」
彼は、大きくため息をついて、下を向いた。彼は、リビングのソファの上で、私の腕をつかんだままでいる。
彼は、顔をあげて言う。
「ごめん、長井……もう服、乾いたよね」
しばらく黙ったまま、お互いを見ていた。
「そんなの明日にすればいいじゃないか」
私は、長井の手を振りほどこうとした。
「着替えるから、服取ってくる」
「ちょっと、待て、亜湖。もう少し話し合おう」
彼が、私の手を握ったまま離さないでいる。


