「なあ……お前、彼氏のこと長谷川課長って呼んでるのか?」
彼は、私のことをよく知ってる。今さらながら感心する。
「違うって。祐介さんって呼んでるよ」これは、だいぶ苦しい。
「呼んでないだろ。この短い時間に、何度課長って呼んだか知ってるか?」
「二人きりだと、そう呼んでるって」
「違う。あの人も、亜湖そう呼ぶのを許してるんだ」
「それが、どうしたって言うのよ」
彼の勝ち誇った顔。ゲームに勝った時みたい。
「亜湖、気づいてない?、お前、呼び方で距離感はかってるって?」
「何のこと?」へっ?そうなの?
「今まで、どうだったか考えでみろよ。特別親しい男しか、名前で呼んでないの気づいてるか?
長谷川課長のこと、名前で呼べないのは、そういう関係じゃないからだ。逆に俺の呼び方が、長井になったのも、距離を置きたいからだろ?」
そうなの?そうだっけ?ちょっと待って。気付かなかったよ。
「何言ってるの?そんなわけないでしょ?」
認めるわけにはいかない。
「いや。だいたい確信した。お前、課長とまだ付き合ってないだろ」
「長井、なんて事言うのよ……何で、そんなこと分かるのよ。でも、彼とは、これからだから。私、ゆ、祐介さんについて行けば間違いないもん」
さすがに、言い過ぎたかな。長井は、顔を下に向けた。
「亜湖、お前いい加減にしろよ。俺……もう限界だ」
長井は、がっくり肩を落としてうなだれて私にもたれかかって来た。


