帰るなら、今だ。
でも、着てるのは、ボロのトレーナーの上下。しかも、下着は長井が放り込んだ洗濯機の中だ。
リビングをうろちょろしてる間に、シャワーの音がやむ。長井がバスルームから出て来てた。腰にタオルを巻いて。
冷蔵庫のドアを開けて、缶ビールを2つ手にしている。
「飲む?」
「飲む前に、なんか着て」
「だって、今さら隠すことないだろ?いつもこんな格好だってこと、亜湖が一番よく知ってるじゃないか」
「いいから、何か着て。足開くな!!」
「服着てくるから、飲んで待ってて」
いらないと答えるつもりだったけど、帰る手段がないとわかって、缶ビールを一つ受けとった。
彼は、コンタクトレンズを外し、メガネをかけて戻って来た。長井は、二人がけのソファの、私のすぐ横に座った。
長井は、ずっと窓の外を見ている。
大きくため息をついて言う。
「長谷川さんに連絡したのか?」
「長谷川さんとは、さっき電話もらって話したよ」
「あの人、君がここにいるの知ってる?」
「いいえ。来る前だったから、知らせてない」


